先生のネクタイに手を伸ばす。
目の前の体がびくりと揺れたけれど、
構わず触れて曲がったそれを直してあげた。
「先生。あたしは浅倉姫衣を知らないなんて、ひとことも言った覚えはないよ」
知らないふりはしたけどね。
先生はあたしの手をぐっとつかんで、見おろしてきた。
「じゃあ最後に2つだけ答えてくれ」
「……いいよ」
「どうして俺のもとからいなくなった?」
いままでの質問の中で、いちばん強い声だった。
ずっと気にしていたんだと、先生の目が訴えている。
複雑な気分になった。
教師としての顔と、男としての顔。
どちらも使ってあたしを責めるあなた。
本当のあなたは、どっちなのだろうか。


