さぁ、と生ぬるい薫風がまだ青い稲と加奈の髪を揺らす。
加奈は少し驚いた表情をして見せたけど、すぐニコリと笑った。
「諦。頬、掻いてるよ?」
「え」
手を左頬から引き離す。
「……やっぱり諦は嘘が下手だよ」
影に向き直り、加奈が言う。
「知ってる」とは返さなかった。
「本当にバレバレだよ?」
どこか、嬉しそうだけど困惑してるような声音。
影の目玉は少し背が伸びて、けれど表情はわからない。
僅かばかりの後悔が僕を襲う。
もっと、早く伝えるべきだった。と。
……僕と加奈の距離を壊してしまうんじゃ。
そう思うと怖くて不安だった。
言わずにいて、それがずっと続いて。惰性に毎日を繰り返した。
少しずつ、少しずつ距離が開いていくのも見ない振りして。
だから、この距離が生まれたんだ。



