放課後がやって来て時刻が5時を回る頃。


学校に残ってる奴は皆、帰宅を促す放送に耳を傾ける。


始まりを告げるのはいつも間の抜ける鉄琴の音だ。


『学校に残っている皆さん、5時になりました。今日も気を付けて家に帰りましょう』


事務的な、と言うかあまりに幼稚な放送に辟易する。


高校生にもなってこんな放送をするなんて気が知れない。


けれどこの教室の中に僕と同じ考えの人間はいないだろう。


皆、この放送を聞くためだけに残っているんだから。


「いいよな加奈ちゃんの声。なんつうかこう、癒される?みたいな」


「あ~、わかる。俺もそう思うし。つうかマジ加奈ちゃんとカラオケ行ってみてぇ」


なぁ諦(あきら)もそう思うだろ?


声と向けられる視線。


僕は読み進める本に目を落としたまま「別に」と返しておいた。


それは馴れ合いの拒絶に他ならない。


加えて言えば、こいつ等と同じ理由で教室に残ってると思われるのが癪だったてのもあった。


だからそんな存外な返答で十分なのだ。


「…なんだよアイツ。超つまんね」


「…ホラ、アイツ加奈ちゃんの幼なじみだから調子こいてんだよ」


下卑た笑いがカラスやひぐらしの鳴き声を霞ませる。


言ってる事がガキ過ぎて怒りすら湧きやしない。