【蝶は笑う】

 蝶は笑っていた



  風に靡く髪を撫でる手を見つめて

  笑っていた

  愛しそうに 愛しそうに



 蝶はひらりと二人の傍に居た



  左手の暖かさは

  わたしが生きている証

  左手の傷痕も

  わたしが生きている証

  左手の暖かさの持ち主は

  何も言わずに手を取った



 蝶は笑っていた


  左手の暖かさの持ち主に

  ”ありがとう”と呟いていたことは

  わたししか知らない


 蝶は二人の傍で笑っていた


  瞳を見れないで居た

  それでも幸せだった

  ホームにひとり残ったわたしは

  少しベンチに座ってから立ち上がった


 蝶は其処に居た





   後から一年前のわたしに花を添えた

   人生の友と一緒に





 歌を歌う わたしだけの歌


  日本語なのか 外国語なのかもわからない

  ただ音を紡いだだけの歌




  言霊を付けられない歌

  


 覚えていたい あの日

 あの日の空 あの日の歌

 あの日の 暖かさ




  わたしは人形じゃないのだから

  蝶はひらり

  人生の友は其処に