【会いに往く】


 ただいま 
 
   久しぶりに呪縛の部屋へ入った



 独りで入った

  呪縛はわたしの中から溢れ出して

   足元からわたしの体を蝕む



 変わらない この部屋

  何年も前から変わらない


  変わらないのは この部屋だけで




  世界はいつでも不透明に

  流転を繰り返し 変わってゆく


  それが時代というものならば

  わたしは時代に追いつけていないのだろう

  変わってしまったナニカに悲しんで

  不変を願うわたしだから



  呪縛は少しずつわたしに漬け込む

   わたしはそれを受け入れる


   目を閉じて 抗わず逆らわず


  蝶がひらり

  きみがひらり



   わたしを見つめて きみはわたしの手を握る



  そしてわたしを叱る

  




  わたしが呪縛の部屋へ入ったのは


   蝶に会うため


  蝶の優しさに漬け込んで わたしは蝶に会いに行く


    蝶はそれを知りながら

    わたしの隣に座る

    そしてしばらくした後

    ひらり と消える




  それだけで良かった

   蝶はまだ許していないんだと安心する


   蝶との最後の約束を破ることを

   蝶は許さない 決して




 蝶と人生の友は 呪縛の部屋へ


  一緒に入っては わたしを生かそうとする




 死して尚、わたしを生かそうとする


  そんなにわたしに 願いを託すのね



  笑ってわたしは 呪縛の部屋を出た


   蝶が居る限りまだ呪縛はわたしを殺さない

   その代わり蝶が消えればわたしはすぐに消えるだろう

   それとも蝶がわたしを連れて行ってくれるだろうか



     遥か彼方、地獄の果てへ