「……そう。残念だわ」

佐々木先輩はタバコの煙を吐きながら、少し視線を落とした。


「すみません」


私が申し訳なさそうに言うと、


「良いのよ。それが貴女の選んだ道なんだから、後悔しないように歩みなさいね」


そう言うと、私に笑顔を向けた。


やっぱり勝てないな……

何だか先輩の器の大きさに、心底尊敬した。

そう、あれからもう一度考えてみた仕事の悩み。

でも、あの日から悩みではなく、不思議と進むべき道が見えたのだ。


私は……転職はしない。

涼と出会った場所で、涼を支えていきたいんだって。

だから、佐々木先輩にお断りをする為に、仕事後にお時間を頂き会社の近くに有るバーに来ていた。

分かって居たけれど、やはり心が痛くなってしまう。


「ちゃんと社長には話した?」


最後まで私の身を気にしてくれる先輩。


「はい。今日の朝に」


「やっぱり、しっかりしてるわね。惜しい人材だわ」


そう言うと、グイッとカクテルを飲み干した。


「来期から、あの場所〈オフィス〉に貴女が居るのね」


「いえ……私は今までの場所で働きます。あんなに立派な場所は、私には不釣り合いですから」


そう言うと、私も目の前に置いてあるお酒を飲み干した。