さて、一の君には、このところ、夜毎にお通いになる先のおできになって、父大臣(おとど)の屋敷にお戻りになる時刻の、夜も遅くになる日がお続きでいらしたので、今宵ひとり、北の対の階にお座りになって、雲隠れの月をお求めになっておりますのを、弟君である二の君は、不思議に思われて、

「今宵はお出かけでないのですか」

とお尋ねになりますと、一の君も、お相手が二の君であることにお気を許してか、物柔らかに微笑みをお返しになるのでした。