さて、これから物語いたしますのは、笛の中将殿が、まだ、一の君とも、左若君(さのわかぎみ)ともお呼ばれになっておりました頃のお話にございます。

一の君が密やかにお慕いなさっておりました姉姫の、二の宮様のもとへお嫁ぎでいらっしゃったのが、一月(ひとつき)ほど前のことにございますれば、時節は、秋も深まるころにございます――……。