「そんなことないよ。あっそうだ」


思い出したように、話を変える。今がチャンスだと思ったからだ。


「その……ティックの作ったものには劣るかもしれないけど……。」


そういいながらさっきの紙袋を渡す。
赤くなった顔を隠すため下を向いているのでティックの様子はまったくわからない。


「あの……これは……?」


声だけでティック顔が驚いているのはわかる。


「その気持ち……お礼というかなんというか……。」


ただの“義理チョコ”自分にそう言い聞かせる。


「ありがとうございます。あっ!アリス様!もしかして先ほどのケーキのお礼ですか。そんな僕そこまでたいした物を贈っていないのに……。なんて気が利く御方なんですか!流石、アリス様」
「えっ」


誕生日プレゼントもらう前からお礼を用意するなんて、抜け目ないというか、自意識過剰というか、あんまりいいイメージはない。


「違うよ。今日はバレンタインデーだから」


自分がそう思われたくない。
そう強く思ったため少し強めに否定する。


「ヴァレンタインデー?」


発音よく言う。
……流石外人。


「日頃お世話になっている方々に感謝の気持ちとして……チョコレートを送る日」


嘘はついていない。
ただ……大事なことを言っていないだけだ。


「そんな感謝の気持ちだなんて滅相もございません」


そう感涙しそうな程喜んでくれるティック。
相変わらず、過剰な反応を見せてくる。

だがこんなに喜んでいるティックを見ていると“本命”か“義理”かなんてどうでも良く思えてくる。
どちらにせよ“ティック”への気持ちは変わらないのだから。
そう考えながら、偶然にせよ“バレンタインデー”に送られた”チョコレートケーキ“をみる。

これをどういう思いで作ってくれたのだろう…。

そう考えながら甘くてほろ苦い“恋”のようなケーキをまた一口食べた。




END