どうして私じゃないのよ・・・



こんな惨すぎる試練など…、誰が望むと思いますか――?





“ありがとうございました”という、店員さんの言葉に見送られて店を退出した。



ビルの間を縫うように吹き抜ける冷たい風が、私の頬を幾度となく掠めていく。



秋の終わりを告げるような感触は、痛みと焦燥感を誘い、過去への後悔を呼び覚ます。




良かったと言えない状況に、貴方の光芒が薄れゆく気がして怖くて堪らないの…。




これ以上、私の中の拓海の残像を潰え(ついえ)させないで・・・





それでも駅へ向かい、タクシー乗り場を目指して無心に歩を進めていた。



お酒の入った楽しそうなサラリーマンや、話し込んでいる学生の姿が目に入っても。



今まで同じような輪の中で笑っていたコトなど、もう遠い昔の出来事に思えた…。




“早く帰らなきゃ…”


この言葉だけが脳内を占領しつつも、どうにか気を保つ為の司令塔と化していて。



感情を逆撫でするネオンの不自然な明かりを避け、ようやく駅へと辿り着いたトキ。




プップ―!――

後方から軽快なクラクションを鳴らされて、何となく振り返ってみれば。




「・・・っ」


思わず息を呑んでしまうほど、予想打にしないヒトの姿を捉えてしまった…。