「……はいはい?」


営業中と書かれた看板がかかったドアを開けた。


こんな街である、バーに人など、

ましてや夜など、人が集まる訳が無い。


その廃墟の王者が、こんなところに来ているとは、あまりに想像がつかない。


「…へぇ。来てくれたんだ」


グラスを差し出して、彼は言った。


左腕が無いとはいえ、接客業は得意なのだろう。明るく笑っている。


「…眠れなくて、暇だったから」

無表情で言うと、くすり、と因幡梓が笑うのが分かった。


「なんか日中と人が違うみたいだ」


「……血を浴びると、興奮するんだよ」


それは、両親を殺した瞬間から荊徒紫苑の中に根付いていた、桐堤紅蓮によって眠らされていた、また桐堤紅蓮の死によって解放された、殺人本能。


「…へぇ。なんかさっきは綺麗で妖艶で、男女問わず本能に駆り立てられる雰囲気だったけど。今はまたまた、凛々しいですこと」


へらへらと笑う彼に、「嫌味か」と呟く。