あの時……ゆずとお母さんに抱きしめられた時とは全然違う感覚。 ドクンと大きく心臓が鳴る。 咲来の匂いがわたしに染み込みそう。 動くことも押しのけることさえもできなくて、咲来の息遣いを感じていた。 「春?」 「……な、何?」 咲来にそう呼ばれて声が上ずる。 「逃げねーの?」 「……うん」 「何で?」 「……分かんない」 何でと言われても分からない。