「早苗と離れたくて向こうに行こうと思ったわけじゃない。でもさ、早苗、いつか言ってただろ? 将来は海外で暮らしたいって。
そのためには向こうの生活も言葉も知っておきたいって思ったんだ。早苗と一緒にいるために勉強しようって……」
ゆずは……すごくお母さんのこと、愛してたんだ。
お母さんのために頑張ろうとしていたんだ。
初めて聞くお母さんへの愛情に胸が熱くなる。
「でも、そんなこと恥ずかしくて言えなくて……早苗に辛い思いさせてごめんな……
あの時、ちゃんと言っておけばこんなことにならなかった……
早苗のこと幸せにできたのに……」
そっとゆずがお母さんを抱きしめる。
握っていたお母さんの手を離そうとすると、逆にお母さんが手を握り返す。
「……今、わたしは十分、幸せよ? あなたが残してくれたものはたくさんある……」
ゆずの胸の中でくぐもった声が聞こえた。

