ラブ・ウイルス


――あたしが高校生になったばっかりの時だった。


嫌になるくらいの大雨の中。
いつものように満員電車に乗って家に帰る途中のこと。


お尻に違和感を覚えたのは、もうすぐ、到着すると思っていた矢先。


まるで愉しむように
ゆっくりとお尻を撫で回す手に、怒りよりも嫌悪感を覚えた。

でも、満員のせいで顔も確認出来なくて、どうしようもなかった。


『おっさん、いいかげんにしろよ』


吐き気で口に手を抑えた直後、後方から聞こえてきたのは、男の子の声。

まだ完全に声変わりをしていないようだったけど、

おじさんの手を止めるのには十分の迫力だった。


数秒後、駅に到着した電車のドアが開いた。

それとほぼ同時、人の波に飲まれてあたしは電車から降りた。

『……どこだろう』


慌てて、辺りを見回す。

もちろん顔を見ていないから断言はできないけど、声からして中学生に違いない。

学ランを捜すがそれらしき人物はいない。


『お礼、言いたかったのに―』

激しく降る雨の音に、あたしの声は掻き消されていった。