ラブ・ウイルス




「――あたし、その人にありがとうって。ちゃんとお礼が言えなかったんだよね」


そこまで言ったとき、目の前の真保がニヤニヤしているのに気付いた。

「真保、気持ち悪い」


「なっ、早紀ちゃん!気持ち悪いなんて――ってそうじゃなくて。
きっと早紀ちゃんは、その男の子に恋してるんだよ」


あたしが……恋??


「だって、その1回しか会ってないんだよ?」


そのあと、どうしてもまたその優しい笑顔に会いたくて探してみたんだけど。

二度と会う事はなかった。


だけど、あの時受け取った、何の変哲のないビニール傘は

なんだか、捨てられなくて
今でも大事に取って置いてあるんだ。


自分でも馬鹿らしく思うけど、いつかまた出会ったら返してちゃんとお礼が言いたい。


だけど、この気持ちを恋と呼ぶにはまだ早い気がする。