静かに、静かに、春宮妃様をお乗せになった牛車が、御所を指してお進みになるのを、十数人の随身者が、弓や刀をかついでお守り申し上げております中で、うちのひとりが、ふと、妃のお乗りになります輿に、ますます近づいて、

「姉上……」

と、このようにささやきますので、妃も、たいそう驚かれて、

「一の君、なのですか?」

小声でお返しになられます。