高校での卒業ライブを翌日に控えた3月のある日のことだった。

「今から会えないか」

いつもとは違うシンの声に僕は車を走らせた。

待ち合わせた場所は、シンと中学時代に毎日のように通っていた市営グラウンドだった。


ぐったりと肩を落としたシンを見て、僕は真夏に水枯れしたヒマワリを思い出した。

「どうした~?肩落としすぎだよ、シン。ここ、懐かしいなぁ。」

できるだけ明るい声で声をかけたつもりだったが、僕の声のトーンもいつもより低かった。

「昨日、病院行ったんだ。妊娠してるって言われたよ。自分の存在を父親にこんな風に思われてる赤ちゃんがかわいそうだ。俺は、妊娠していないと言われることを望んでた。」

シンは、僕の方に顔を向けることなく、じっとひざに置いた自分の拳を見ていた。

「仕方ないよ。まだ僕らは、父親になれる年齢とは言えない。学生だし、素直に喜べないのは、仕方がないことだと思うよ。・・・で、彼女はなんて?」

「彼女は、一人で産むから気にしないでと言っている。手首切ったときは、別れないでと俺にすがってきたのに、昨日病院の帰りにはとても落ち着いた表情だった。お腹に子供がいるってちゃんとわかって、あいつはもう母になってるんだなと思ったよ。」

シンはやっと顔をあげて、僕を見た。