どんなに聞き取りにくくても、水野さんの声が聞きたかった。


きっとみずきさんも同じ思いだったろう。


手が震え出した。

不安と恐怖で、

涙を拭う手がおかしな動きをする。


水野さん、お願いだから生きて。



お願い・・・。



体中がしびれるってどういうことだろう。


僕は知識がないから、しびれ=脳梗塞って頭に浮かんだ。


「お願いだから、助けて・・・。お願いだから命だけは・・・」


みずきさんも同じ事を考えたのか。

さっきみずきさんと話してたことを思い出した。



『どうなろうとも私は付いていきたい。もし、病気で寝たきりになったり、事故で車椅子になったりしても』・・・・・


僕は祈ることしかできなかった。


渋滞のこの道を、突っ走って行きたかった。



また携帯に電話がかかってきた。



「やだ・・もう・・。出たくない・・・やだ・・・。こわいよ・・」



僕も同じ気持ちだった。

水野さんが死んだっていう電話だったらと想像すると電話に出るのが怖かった。


僕は、泣きじゃくるみずきさんの手から携帯を取った。


「はい・・」


「あ、今病院着いたから。救急車の中で、落ち着いてきたから。死なないから!」


僕は、みずきさんの手を握った。



「死なないって!!大丈夫だって!!今、その電話だったよ!」



僕とみずきさんは、ホッとして体中の力が抜けた。

頭の中には、ずっと水野さんの笑顔が回転してたんだ。



家を出てからずっと。

もう会えないかと思った。

もうさよならかと・・思った。



早く、水野さんに会いたい。



「遅くなって悪かったね。早く旦那さんの所行って上げなさい。」


タクシーの運転手さんは、財布を出そうとしているみずきさんにそう言って、顔の前で手を横に振った。


それは、お金はいいから早く病院へ・・

という意味だった。



そのまま、お礼を言って僕とみずきさんは走った。