彼もゆうじという大きな存在を超えなければならなかった。

ゆうじの歌を歌うということの喜びと、自分にそれを歌う資格があるのかという苦しみにも似た気持ちが、大野君を追い詰めていたのかもしれない。


もう自分には追悼ライブはできないと泣いた夜、大野君はゆうじからの手紙を見つけた。


「僕が死んでしまったら、このノートは大野君の物です。捨ててくれても構わない。大野君が幸せになることが僕の願いだから、大野君の決めた道に進んでほしい。最後まで、迷惑ばかりの僕だけど、これからもよろしく!」



大野君は、涙を拭いて、大きな第一歩を踏み出す決心をした。

泣いてなんていられない。

ゆうじの意思を継いで、歌い続けるのは自分しかいないんだと、大野君は走り始めた。



秋に行われるライブでは、映像でゆうじを映し出し、その横で大野君が歌うという不思議な構成になるらしい。

今まで通り2人の歌を聞くことができることはとても嬉しい。


でも、そこにいるのは映像のゆうじ・・・



それは、僕らにとって嬉しいような悲しいようなとても複雑なライブになることを予感させた。

動いているゆうじ、歌っているゆうじを見ることで、まるでゆうじがそこにいるかのように感じることだろう。


しかし、ゆうじはそこにはいない。



「いっぱい泣こうね。」


ユキは、僕の心が読める。


僕とユキは、少し涼しくなった夏の終わりの夜道を手をつないで歩いた。