「君か、あの時病院へ運ばれていた友達と言うのは・・・。私はタクシーにハル君と奥さんを乗せたときに、話を聞いていて過呼吸だと思ったんだ。」


「俺も、めまいと息苦しさで死ぬかと思ったんですよ・・。」

水野さんは辛い記憶を思い出しながら目を閉じた。

きっと昨日のことのように鮮明に覚えているんだろう。


「あの恐怖は経験した者にしかわからない。だが、同じように奥さんや友達も君を失うかもしれない恐怖を味わったんだよ。だから、同じように君の苦しみをわかってくれる。大事にしなさい。」

山之上さんの声はとても優しく心に響く。

「はい。感謝しきれないくらいに、感謝してます。」

水野さんは、みずきさんの手をぎゅっと握った。


「私はその日に退院して、翌日から仕事に行った。それが間違いだった。また会議中に苦しくなった時に、社長にからかわれたんだ。そのショックで、私は会社に行けなくなりました。支えてくれるのは、家族だけです。この馬鹿息子のおかげで、また生きたいと思えるようになった。」


僕たちを感動させるだけ感動させて、山之上さんは仕事へと戻った。

みんなの顔が、キラキラしているように見えた。

とてもいいお話が聞けて、僕はこの偶然に感謝した。


その日の帰り道、結婚について話す予定だったが、今日の山之上さんの話で盛り上がり、結局結婚については、また次回話すことにした。


真っ暗な部屋に帰った僕は、実家に電話をかけた。


「仕事、無理すんなよ。もういいオヤジなんだから!!お母さんとも仲良くね。」


柄にもない事を言う僕に、お父さんは明日地球が滅亡するんじゃないか、と笑った。