「ふざけて話したことはあるけど。いつもユキは早く結婚したいなーって言ってた。」

僕達は、常に結婚を意識していたけど、結婚について具体的に話すことを避けていた。


「普通なら就職が決まってからとか、安定した収入がもらえるようになってからって考えるかもしれないけど、お前ら普通じゃないからな。お前とユキちゃんは、この先もう絶対別れることはない。だから、早くても俺はいいと思う。」


シンは、転がっていたボールを蹴って、俺にパスした。

「普通じゃない、か。確かに、独身のうちにやりたいことがあるわけじゃないし、ただ結婚できる年齢を待ってるだけ。」


風が僕の背中を押しているようだった。

考えないようにしていたのかも知れない。

正直に心の奥を覗いてみると、今すぐにでも結婚したい僕がいるんだ。


「そうだよな。お前も独身のうちにコンパに行くわけでもなく、ユキちゃんもお前以上の男を捜す気もないだろ。」

「ユキより、僕がユキを求めてる。ユキを必要としてる。僕は、ユキと毎晩眠りたい。隣にいると安心して眠れるんだ。」


ユキと眠った夜を思い出す。


「案外男のほうが寂しがりやだもんな・・。わかる気がする。俺も、さんざん悩んだけど、今は生まれてくる子供と3人の生活が楽しみで仕方ないよ。」


シンに対して、不思議な感情が生まれていることに気付いた。

嫉妬とは少し違うけど、とても羨ましいと思った。

「結婚したいって気持ちずっと抑えてたのかな、僕は。お父さんとユキの時間がまだまだ足りないって思ってた。ちゃんと向き合って、ユキと話すよ。」

シンは、僕の肩をポンと叩き、立ち上がった。

シンは、僕よりずっとずっと前を歩いてるんだ、きっと。

「俺、ゆうじに結婚の報告してくるわ・・!!」

シンは、オンボロ自転車に乗り、走り去った。


僕は、大きなグラウンドを見渡した。

「はぁ~。結婚か・・・そりゃ、今すぐにでも・・したいよ。」


珍しく独り言を言いながら、グラウンドを歩いた。