水野さんの家の玄関先に咲く花は、春はまだかと待ちわびているようだった。


「おぉ!電話くらいしろよ!飯くらい用意しといたのに。」


昔に戻ったような明るい声に、僕とユキはホッと胸を撫で下ろす。


「せっかくケーキ持ってきてくれたから、食べましょうよ!」


みずきさんの入れてくれる高級な紅茶を飲みながら、穏やかな時間が流れた。


誰もゆうじのことは話さなかったが、みんな心の中で考えていることは同じだったろう。


「俺、ちょっと病院行って来るわ。お前が来るならキャンセルしといたのに。」


水野さんはジャージ姿で、自転車で病院へ行ってしまった。

病院はここから5分くらいの場所にあり、1時間で戻ると言っていた。


僕は、水野さんが倒れた日のことを意識せずにはいられなかった。


時間帯といい、ケーキと紅茶・・・。


「あの時は、本当にハル君ありがとうね。」


みずきさんも同じ事を思い出していたようだ。


「亮ちゃん、すごく元気でしょ?やっといい病院見つけて薬もらうことができてね。薬飲んでから1週間くらいで、元通り元気になっちゃって・・。今まで、連絡もらってたのに、ごめんね。全然会えなくて・・。あの頃は、別人のように、元気なくって。」


みずきさんのほっそりとした腕で、水野さんは支えられているんだと思った。