吸血鬼と紅き石

青年の後を付いて行った先は大きな広間のような場所だった。

柱の隙間を縫って、大きな絵画がいくつも掲げられた部屋。

「ここは…」

部屋を見渡してリイエンが呟く。

その絵画のどれもに、目の前の青年と同じく黒いマントを羽織った姿が描かれていた。

夜の闇に紛れる残虐な姿に良く似ている。

「俺の一族の下らん歴史さ」

先程の自分の言葉に返る声。

良く通るその声にリイエンは絵画から顔を上げた。

「あなたの、一族、って…」

聞いたばかりの衝撃に、言葉が途切れる。


『吸血鬼には、近付いてはいけないよ』


何度も教えられて来た、父の教え。

高慢で残虐な、吸血鬼。

目の前の青年は良く聞くその姿に似過ぎている。

「俺は見ての通りの吸血鬼だが?」

分からんのか、と言外にはっきりと聞こえるような態度に思わずカチンと来る。

「急にこんな所に連れて来られて理解しろ、って方が無理だわ!…あなた、吸血鬼…ってまさか…」

苛立ちのまま怒鳴るリイエンの言葉がふと猜疑に途切れる。

「あなたが、父を…殺したの?」

脳裏に浮かぶのは、凄惨な父の最期。

ギリ、と青年を睨み付けるリイエンに当の本人と言えば。

「お前、馬鹿か」

心底呆れたようなその言葉と表情の憎たらしさったら!

「だから情報もないのに全て察せというのは無理な話だと言っているのよ。違うと言うならば、教えてくれるのが筋というモノじゃないの!?」

きぃ、と怒り露に言い返すリイエンに、青年は見事な色の双眸を丸くしたあと、噴き出して。

「気に入ったぞ、娘。ならば教えてやろう」

明らかな興味の色を瞳に宿してそう告げた。