どれだけ走ったのだろう。

家へと辿り着く通い慣れた筈の道程が、やたらと遠く感じた。

父と二人で暮らす小屋に辿り着いた頃には息が切れて。

早くと急く気持ちとは裏腹に、確かめるのが怖い。

半開きになった扉を、ゴクリと一度喉を鳴らしてからゆっくりと開ける。

「父、さん…?」

薄暗い室内。

灯りが消えている。


可笑しい、おかしい、オカシイ。

確かめるべきではないと、本能が告げる。

だけど、だけど!

「お、父さん」

ギィ、と蝶番を軋ませて扉を開けた、その時だった。

雲に隠れていた月が現れ、その光で小屋を照らしたのだ。


「お」

父さん。

呼び掛ける筈の言葉は声にならず。

変わりに細い悲鳴が辺りに響いた。