「…知って、いたわ」

女がふと、緩やかに笑みを浮かべた。

「あなたがそんな人だ、って事。誰よりも…見て、いたんですもの…」

切れ切れになる言葉を紡いだ女が、レンバルトの顔を見上げて笑みを浮かべた。

先程まで浮かんでいた、手に入れようとする、執着の笑みではなく。

ただ純粋に、どこまでも純粋に目の前の男を愛しいと、愛してる者の笑みだった。

他に比べるものがない程それは美しく、儚い。

そのまるで聖母にも無垢な少女のようにも見える笑みに、彼女を見下ろす男は、口端を僅かに吊り上げた。

パ、ンと。

薄氷が割れるように、霧になってその身を大気に溶かそうとするかのように。

不可視の音と共に、闇の女の姿はこの世界から掻き消えた。