吸血鬼と紅き石

何年経ってもその美しさの変わらぬ者は人間の中にもいるが、父は変わらなさ過ぎた。

その人離れした美しさを羨む声と共に、陰で化け物だと父を厭う声もあったのを知っている。

リイエンはそろそろと顔を上げて、目の前の青年を見つめた。

吸血鬼の寿命は、人のそれより遥かに長い。

人と過ごす何十年で何一つ変わらなくとも不思議はない。

…言いがかりだと、言えば良いのだ。

先程のように敬愛する父を侮辱するなと目の前の男に、食って掛かれば良いのだ。

なのに。

何かが引っ掛かっているようで、喉に言葉が張り付いたまま出て来ない。

どうして。

ただ一言怒鳴れば良いだけなのに。

「こいつも当たりみてェだな」

青年の、低い美声。

リイエンはその声の主をキッと睨み付けた。

「ま、まだ納得しないわ!」

「…往生際の悪いヤツだな」

忌々しげな舌打ちと変わらない口の悪さも一々カチンと来るけれど、今は気にしていられない。

この男を黙らせるような、父が吸血鬼だという事実を否定させるものを見つけなければ…。

リイエンは必死に頭を巡らせる。

何か、何か…。

「じゃあ、これならどうだ」

青年の懐から出された一枚の写真。

突っぱねてやろうとリイエンはテーブルを滑るそれに視線を落とした。

だが。リイエンの必死な想いは届かず。

それにより、決定打は下されたのだ。