吸血鬼と紅き石

「言い方を変えよう。オルフェルト…お前の父親は満月の晩は部屋から出て来なかったんじゃねェか?」

青年の言葉に嫌な感覚で胸がドクリと高鳴った。

確かに満月の晩は決まって、月が空に昇り切る前に部屋へと入っていた。

一度用事を思い出して父の部屋を尋ねても、扉には鍵が掛けられ、呼び掛けにすら返事もなくて。

何時もは夜に強く、何時眠っているのかさえ分からなかったその父の様子を、まるで吸血鬼のようだと笑ったことはなかったか?

「その様子だと合ってるみてェだな」

黙り込んだリイエンの様子を見て、青年は目を細める。

「俺ら吸血鬼は満月の夜になると、より強く本能が目覚める。だからオルフェルトの奴はその間だけでも部屋に引き隠ったのさ。娘であるお前を、自分のその手に掛けちまわないようにな」

青年の言葉をどこか遠くで感じる。

否定したいのに、何かが引っ掛かって先程のように食って掛かれない。

「そして──お前と暮らしていた間に…奴が少しでも老いたことがあったか?」

ドクリ、と。

また嫌な感覚で心臓が高鳴る。

物事付いてから村の評判だった父の美しさは何一つ変わることはなく。

その美貌に、翳りさえ見えなかった。