俺がうーん、と顔を歪ませていると、奈美さんがこっちにやってきた。
「依知君、セリフ覚えることが出来た?」
「…奈美さん、キスってほんとにするんですか…?」
俺が少し戸惑いながら言うと、奈美さんは大声で笑い出した。
「やだ、何言ってるの?
そんなことしたら那知怒るし、依知君だって初恋の女の子に誤解されたくないでしょ?
だから、今回はキスの「ふり」よ!」
「そーですか」
奈美さんの声を聞いた俺は、安心して溜め息をついた。
そんな俺に対して、奈美さんは続ける。
「このシーン、ハワイでの最後の撮影なの!
今日帰国して三日休んだら、また日本で撮影再開。
ちなみに…演技は本気でやってよ?
たとえ、声は変えられるとしてもその場の雰囲気は変えられないから。
この作品を最高のものにするためにも、よろしくね!」
…奈美さんが一気に女優の顔になった。
そんな奈美さんを見ながら、俺も顔が真剣になる。
―――俺も頑張るか。
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