「あいつの機嫌をとりつつ、勉強したいし、本当に大変だったんです。毎日毎日気持ち悪くて。ある日偶然あいつが俺の服を抱きしめてながら父親の名前を何度も何度も言ってるのを聞いて、あぁ、こいつは俺に父親を重ねてるんだなって目の当たりにしたんです」 ここから先の話はしたくない。そう思った瞬間だった。 「どうして出て行かなかったの?」 「え?」 彼女からの思いがけない言葉に、素っ頓狂な声を出す。 「あなたが出て行かないにしても、彼女を病院にでも連れて行ったらよかったんじゃないの?」