そんな尚翔の気持ちを
ひっくり返す出来事が起きたのは、
冬休みを数日後に控えた
ある日の事だった。

この日は
クラス対抗球技大会が
開催されていて、
1日授業が無く、
皆スポーツで汗を流していた。

尚翔は例によって見学だったが、
参加出来ない事は解っているので、
もう諦めていた。

そこへ、可憐がやってきた。

「尚翔くん、元気?」

「可憐。」

「見てるの退屈でしょ。
話相手になってあげるよ。」

「…サンキュ。」

可憐は尚翔の隣に座り、言った。

「早く休みになれば良いのにね。」と。

「何で?」

「あれ、七海から聞いてない?
クリスマス、皆で
パーティーしようって話。」

「まだ。」

「七海の奴、忘れたな?」

「あいつ結構
おっちょこちょいだからな。
仕方ないさ。」

「…あはは、そうだね。」

尚翔は、目の前の
バレーボールコートに目を向けた。

尚翔のクラスと、
隣のクラスが試合中である。

「俺、前居た学校で、
バレーボールやってたんだ。」

「そうなの?」

「足怪我した頃は
引退する直前だったんだ。
だから最後の試合も
結局出られなかった。
結構いい所まで行ってたんだぜ?」

「尚翔くん…。」

「それだけに悔しかったよ。
何で俺がって最初は思ったし、
両親亡くした悲しさと
チームに迷惑かけたって思いと、
中学最後の試合に
出られなかった悔しさと、
色々混じって毎日泣いてた。」

「尚翔くん…
今でも、悔しい?」

「ちょっとだけな。」

「泣いていいよ。」

「え?」

「私の前では泣いていいから、
他の場所では笑ってて。」

「可憐…ありがとう。
でも大丈夫だ。
ある程度時が経ったし、
もう立ち直ってるから。」

精一杯の強がり。

本当は不安が沢山ある。

可憐には弱い所を見せたくない。

そう思っていた。

「そっか。
でも、泣きたい時は言ってね?
肩を貸すから。」

「ん、サンキュな。」

尚翔は少しずつだけれど、
可憐に惚れてきていた。