「悲しい話、自分にしてるうちにさ、
昔読んだマンガの中の身の上話とか、
テレビとかに、影響受けちゃったりしてさ」
「不幸増幅だね」
「増幅、あ、それかも。
かわいそうっていうか」
「かわいそうなの嫌いってこと?」
「そうなのかな」
「そうだよ」

まだ一度も言葉にしていない
自分の中ですら、
言葉にしていない気持。
そういうのって、まだ不幸か幸福かも、
自分で決めてないってこと。
新鮮な今。
もぎたての果物みたいな今。

海を見ながら、そんなものについて、
つい考えた。
そういえば、何が幸せだとか、不幸だとか、
子供の頃は考えなかった。

今が楽しかったり、
次の日には悲しかったり、
でもそのふたつの間には、
何の関係もなかった。

「ヒデミはさ、古いものより新鮮なものが好きなんだよ」
「んー、どういうこと?」
「話すと長いかも」
「どれくらい」
「いや、そんなに長くもないかも」
「何だそれ」
「ちゃんと話すとね、不幸話みたくなっちゃうんだよ」