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頭上で鳴り響く緊急避難指示の女声アナウンスを、真人は聞いていなかった。

ただ、ビーッビーッと繰り返される警報、そしてそこら中で回転している強烈な赤ランプが鬱陶しかった。

濁流のようになって逃げ惑う人々の中、ただの点になってしまったように、立ち尽くす。

「ヤツらが……」

右手を固く握り締め、彼方の空を睨んでいる真人の目には、憎悪が燃えていた。

「ヤツらが……!」

体が震えるほど奥歯を噛み締める真人に男がぶつかり、転んだ。真人も巻き添えを食う。

地べたに倒れた自分らを避ける人々の足が、慌ただしく通り過ぎる。

「つ……なにやってんだ、お前!」

と、起き上がった男が怒鳴った。頭をぶつけたのか、ひたいに血が滲んでいる。

「こんなとこにぼさっと突っ立って! 死にたいのか!!」

「……」

「なんとか言えよ、おいっ!!」

しかし、真人は取り合わない。ただ空を、その空の下にあるだろう戦場を幻視して、睨む。

いつの頃からか赤く染まりっぱなしの空。雲は黒く、毒々しい淀みに支配された空。

今は数条、灰色の煙が立ち上っていた。