「……――ふぅ」

と、力だけでなく息も抜く。

本当にリラックスしようと思えば、全身をピッタリと包むパイロットスーツは、少しごわごわして相応しくなかった。

ふと、その時――

(……ひとだ)

数十メートル先の角に、人を見つけた。

ギルディウスのアイカメラが、一点を拡大して映し出す。

(ひとだ)

と、気付いた時と同じ感想に、

(おもしろそうな、男の人だ)

少し、形容詞が加わる。

青年というべきか、少年というべきか、レンには判断できない。

わりと長身で、黒い髪。物憂げな表情と病んだ瞳。前髪が、少し長いようだった。

年の頃は自分と同じぐらいに見えるが――まとっている雰囲気が静かすぎた。

彼が、近づいてくる。

ので、言った。

「――そこの民間人、止まって。それ以上近づくと……」

後頭部を、ぽりぽり。

「あー……なんていう規則か忘れちゃった……。とりあえず、吹っ飛ばされたくなければ近づいちゃダメだよぉ」

男の顔が明らかに、不信で染まった。自分でも頭の悪い言い方だとわかっているから、苦笑するしかない。

ところが――男は、また踏み出してくる。

最低でも「止まれ」だけは、伝わったはずなのに。