コツリ、と管原の後ろで足音が鳴る。


それは誰でもない、この場に新たに現れた者の足音。

「…?」

咲眞がそこへ視線をずらすと、スーツの上に白衣を纏う長身の男が立っていた。そして……


「ま……っ!」

そして咲眞の表情が固まる。

悠然と現れたその男。

それを管原は横目で見やり口を開く。

「アンタが捕まえたのか盟代」


「全く、たかが子供二人の侵入を許すとは……馬鹿馬鹿しくて怒る気にもならん」

盟代と名指しされた男は低い声色で呟き、暗く光る眼鏡の奥が、盟代の手に繋がれている少女を見下ろす。


「茉梨亜……」

男に捕らえられている茉梨亜を見て咲眞は眉間を寄せた。

見た限りでは危害は加えられてなさそうだが。


「この娘、おまえの背後を狙っていたぞ……管原」

ブラウンのサングラスの中で、どこか嘲笑うかの様に盟代は管原を一瞥する。


「おまえと違って俺様モテモテだからねぇ」

口の端で笑いながら軽口を吐き出すものの、管原の目は笑っていない。


「んじゃ、後は頼むわ。俺まだまだ仕事あるから」

この場の興味を失ったかの様に、管原はスタスタと歩き出す。

咲眞と擦れ違っても、咲眞と目も合わせなかった。


「だ……弾くん!!」

その背に呼び掛けた茉梨亜は、盟代に更に強く手首を掴まれる。
が、それに構わず。

「もう……助けてくれないの?」


「……」

管原の横に居た折笠も何も言わず、咲眞も眉を顰めて管原を見ていたし、盟代はこの場を暗い瞳で見下していた。


しかし管原は口を開く事はなく。

ただ背を向けたまま軽く手を振った。



「弾くん!!」

行ってしまった背中に呼び掛けるも虚しく、盟代に遮られる。

「さぁ、君達には色々聞く事がある。子供だからといって甘やかすつもりはない」