その本を拾い上げる俺の手は震えていた。
こんなこと、あるはずがない
と、俺は心の中でずっと呟いていた。
夜になるのを待って、俺は愛のもとへ向かった。
あの再開から、俺たちはあのときのように毎日会っていた。
……ただ変わったことといえば、お互いがお互いを干渉することがなくなった。
本当は聞きたいことがたくさんある。
特に彼女に聞きたいこと、それは愛の婚約のことだった。
あの日、俺は約束の場所に行けなかった。
親に俺を紹介することもできず、愛はそうとう困ったと思う。
だけど、何も言ってこないということは、婚約の話は進んでいないということなのかと思ったりもする。
「また何か考えてたでしょ?」
愛にそう言われて気がついた。
仕方ないんだから、そう言って微笑む愛。
こんな様子の俺には慣れてしまったようだ。
それから一方的に愛が延々と話し続けた。
今までも愛が話すことが多かったが、こんなに話す愛を見たのは始めてだった。
おかしい、そう俺が思ったときには愛の口に人差し指をあてて話を止めた。

