-2週間後-

 田岡邸の前には、もう記者はほとんどいなかった。

 世間で言う『いなくなって初めて分かる』の逆で、むしろ田岡程度の初老の中堅俳優というのは世間が思う程、これといって必要でなかったわけである。

 アイドルではないのだ。
 視聴者の主要層の若い中高生は、還暦の男達の顔の区別など付きはしないのである。
 

 
 真昼からカーテンが引かれた家の暗がりで、田岡はウィスキーを煽り古い映画を見ていた。無精髭と酷い隈。この老人には、もはや一ヶ月前の『今度なんか意味無い。今が大事なんだ』と啖呵を切った威勢は微塵も無い。

 ……あるのは、やつれた顔の底にある死の影だけだ。

 
 と、家のチャイムが鳴った。