寿は何も答えず、考えながら外に出た。

 
 「経験的に…」
 このとき彼の脳裏には幼馴染の『綾』の事が浮かんでいたと思われる。

 「…経験的にたぶん。 君もそう思うだろ、『バステト』?」


 「へ? 私?」


 「『美幸』って本名聞いたら、何故かそう直感した。それに…、そうすれば“君たちを呼べる”気がする…」


 「私は?」

 
 「君は『トト』…」
 

 「ありがとう。…でも…いや、いいや」
 
 智美は釈然としない様子であったが、それについて質問する事は寿を追い込む事になりそうなので黙っていた。


 「うん。“今は無理なんだ” …ごめん」
 
 寿は『トト』の言わんとする事が分かっていて、だからこそそれを詫びた。

 “今は無理なんだ。本名で呼ぶ事は…”


 
 「いいの。気に入ったから」

 
 そして三人は誰ということなく帰路へと別れていった。


 
 数メートル離れてから最後に寿は、感謝を込めてもう一度、その名を呼んだ。
 「じゃあね、『ティラミス・ガールズ』」

 
 ………

 “今は無理なんだ。本当の名前は感じ過ぎてしまうんだ”
 
 “それは僕を壊すから…”
 
 ………