「……じゃ俺、おでん」次に寿がボソリと言う。「大根二つとガンモと牛筋。カラシ二つ」
 
 
 「お、おい! テメェが一番、年下だろ! 調子乗んな!」
 
 
 そんな沢北の抗議は無視されて、続いて清田が「俺は、赤いキツネ。大盛りのヤツ。お湯だく」と、言った。

 
 「お湯だく?」
 と、美幸は疑問する。

 
 「減塩中なんだ」


 「へぇ。あんた、結構マトモじゃん」
 と、智美が納得する。


 「ちょ、後半おかしいでしょ!?」と、沢北。「寿も来いよ!」


 寿はしゃがみ込んで絵の具を選ぶフリをし、沢北を無視した。 

 
 「お~い、寿くぅん!!」

 
 「うるせぇ、とっとと行け!」
 清田の一喝が飛んだ。


 寿は顔を地面に向けて誰にも見えないように笑っていた。
 『落書き』という公共物破損の犯罪がスパイスとなって、この瞬間の仲間との遣り取りは純粋に楽しかった。
 こういう青春もありかな、と思っていた。