しかし、自身が出演している作品の話題をテレビが伝えようというのに、田岡は眉一つ動かさなかった。

 田岡は一口ウィスキーをやると、膨大な郵便物を整理しはじめた。

 テレビは田岡の注意を惹こうとするように続ける。

 「……という、ハラハラさせる内容もさることながら、やっぱり豪華出演者も見所の一つ! 相関図をこちらのフリップに…」

 
 しかしやはり田岡は一切の関心もなしに、郵便物を点検していく。

 「…ゴミ。これもゴミ。ゴミ、ゴミ。全部ゴミ…」彼は次々に手紙やら封書やら、DMやらをゴミ箱へ投げ入れていく。田岡の歳の俳優ともなればこうして多くの人間からの挨拶やら招待状が送られてくるが、彼にすればそれらは全てゴミに過ぎない。
 いやゴミは言い過ぎかもしれないが、少なくとも彼からすれば、“大切なもの”は何一つ含まれないのだ。
 
 「ん?」
 田岡は、手書きの茶封筒に目を留める。

 宛名は『田岡優』。封を開けると手紙と健康診断の予約書が入っている。