暫しこの小さな家で寛ぎ、俺たちは人気のない館に戻りそれぞれの部屋へと戻った。

 メルセデス殿が戻って来たのは、それから1時間くらい経ってからの事であった。

 この晩は眠りにつく事が出来ず、ベッドの上で天井を仰いでいた。

 会ってまだ間もない彼女を、しかも、自分が何処からきたのかハッキリもしていないのに連れて帰りたいなんて――

 彼女が見せた淋しげな影が気になったのは勿論の事。

 だが、安易な気持ちや同情とかではない。

 どうかしているな



 翌朝、朝食の支度が出来たらしく扉の向こうから俺を呼ぶ声が聞こえ、身支度を整え奥の間へと向かった。


 「失礼します」

 「よく眠れたかね?」

 「お陰様で。メルセデス殿お話があります」

 「うむ。食事の後に聞こうではないか」


 再び静かな静かな食事の時間となった。

 昨夜過ごした時間は、夢であったのかと思うほど互いに顔を上げる事もない。

 ふと庭へと視線を向けてしまった。


 「この庭はアンジェリーナ様がお造りになられた大切な場所なのです」

 彼の言葉にナイフを持つ手が止まった。

 昨日ソフィア殿から一部を聞かされてはいるが、メルセデス殿へ耳を傾ける。

 「アンジェリーナ様?」

 「さよう。このヨルデス国の先代女王陛下だ」


 アンジェリーナ…様?

 ヨルデス……女王陛下……

 脳裏に過る単語のパズルを並べていく。

 このメルセデス殿もそうだが、全て大事なキーワードであるような気がする。
 俺は……偶々流れ着いたのではなく、この国に用事があったのか?

 突然頭をカチ割られるような痛みが走った。

 「……うっ」

 「どうされた?」

 「いや、大したことはない。すまぬ」

 「私こそ食事中に長々と失礼」


 この日は結局、彼と話をすることはないまま太陽が海にが沈んだ。


                           - 11 -