懐かしい味がするこのカリン酒のせいなのか、夕方から胸に遣えていたものを吐き出すように語り始めた。
「ソフィア殿」
「はい」
「そなたは、今幸せか?」
「え、えぇ」
俺の不意の質問に戸惑いながら答える。
「本当に?」
先程見えた淋しげな影が脳裏から消えず念をおす。
「幸せ、ですわ」
「それなら、何故答えに迷う?」
「それは……」
「もし、偽りの幸せであるならソナタを我が国へと連れて帰りたい」
「貴方の……国?」
「あぁ」
「記憶……戻られたのですか?」
「まだ完全ではないがな。おそらく俺の名はニコラスだ」
「ニコラス様?」
黙って頷き、一人客間にいるときの出来事を話し終え、受け取った帯状のメモを彼女に見せた。
彼女は、瞳を見開き何度も何度もメモを読み返していた。
次第に笑顔が広がった。
「私……今直ぐに答えを出す事が出来ませぬ」
「そうだな」
庭に咲く百合の花が儚げに揺れる
「お国……何処ですの?」
「この大海原の向こうという事だけしか覚えておらぬ」
「ニコラス様は何故大海原を渡って?」
「さぁな」
「大事な問題を抱えていらっしゃるのですね?」
「何故そう想う?」
「もし、旅行客だけの方でしたら伝書鳩まで飛ばさないわ。」
「そうなのか?」
「えぇ。こうして安否の確認に態々鳩を使うということはご身分を証されては困るからでしょ?」
「さぁな、考えた事もなかったな」
- 10 -



