食事が終わるとメルセデス殿は用事があると、館を出ていったようだ。

 静寂の中、再びソフィア殿と二人きり。

 気不味い雰囲気を打ち破ったのは彼女だった。


 「貴方を是非お連れしたい場所がございますの」

 「俺を?」

 「はい」


 静かに微笑んだ彼女は、ゆっくりと月夜の庭に続くテラスへと足を運んだ。

 テラスから小さな階段を降り、生い茂った草の中に身を隠す。

 俺も慌てて追いかけた。

しばらく草むらを歩くと、夕方彼女が持ってきたものと同じ白百合

 咲きみだれるその奥に小さな白い家

 
 「ここよ」


 ここは、彼女の乳母が昔暮らしていた離れ小屋らしい

 今は、誰が住んでいるわけでもないようだが、風通しだけは行っているそうだ。


 「何もないですけど、どうぞ。秘密の館ですの」

 「秘密を俺に教えてもいいのか?」

 「えぇ。貴方は悪い方ではないですもの」

 「そんな事どうして分かる。俺は――」

 「本当に悪い方でしたら、もっと自信タップリに接するでしょ? でも、貴方は記憶を探そうと必死なんですもの」

 「………」


 彼女の鋭い観察力に何も言い放つ事ができない。


 「どうぞ」


 床下に収納してあったカリン酒を彼女から受け取った。


 「ウフ(笑) 伊達にメルセデス様と共にしておりませんわ」

 「大した娘だな」


 カリン酒を一口含ませると、俺も落ち着きが戻ってきた。

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