海岸から少し離れた高台にあるレンガ造りの宮殿。
月明かりに照らされ、バルコニーに佇む二人の男たちが、今静かに話をしている。
「いよいよだな」
「はい。いつでも出航する準備は出来ております」
「シモン、いつもありがとう」
「何を仰いますか、私は常にニコラス様に仕える身ですから」
穏やかに答える彼は、シモン、25歳。
俺の第一従者であり、相談役の兄貴代わりをしてくれている。
そして、俺はニコラス、19歳。このエルフィオン国の継承者。
1ヶ月後20歳になる俺には、王位継承式が待っている。
つまり、この国の王になるらしい。
国を治めるとか、正直興味なんかねぇ。
統制は、今までのようにお爺たちに任せておけばいいのに。
先王の親父は俺が幼い頃に病死している。
だから、将来俺が親父の後を継ぐ話は昔から聞いていたが、本当にそんな日が来るとはな。
なんだか、実感がない。
「身体に障りますから、そろそろ部屋へ戻りましょう」
「先に行っていてくれ、もう少し風にあたりたいんだ」
「かしこまりました。お気をつけ下さい」
「あぁ」
目の前に生えているシュロの木々が時折揺れている。
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