午前中目一杯、ひたすら潜る練習。

 彼の手、無しでもかなり長い時間潜れるようになった。


 お昼休憩を挟んで、再びプールに向かった。


 「よし、今度は出来るだけ底に付けられるようにな」

 「底に?」

 「そうだ。深く潜る事はダイブの基本だろ?こんなプールじゃ景色も何もねぇからつまらねぇけど、海ん中は下へ行く程世界が拡がるからな」

 「うん」


 海の世界……

 写真では見たことがある

 真っ青な中に色とりどりの魚や珊瑚礁

 地上では絶対に見られない

 海の中の魔法の国

 私も……見てみたいな


 顔が沈みやすいように、大きな力で手を引いてくれる。

 だから、私は安心して身体を預ける事が出来た。


 50cm……100cm……150cm……


 耳が……痛い


   ブハァ

 「頑張ったな。少しずつで大丈夫だ」

 「うん」

 「耳、痛くなったら鼻摘むんだぞ」

 「うん」

 「続けられるか?」

 「うん」


 再び彼の手に引かれプールの中へ。


   ブクン


 水の中の彼の姿は、すごく真剣。

 高校生とは思えない鋭い表情に変わる。

 今朝まで面倒くさそうにしていた人物とは、まるで別人。


 ずるいよ

 ――このギャップ。


 握られている手の温度が上昇する。