── 俺がまだ中坊の夏頃
何もかもが灰色にくすんで見えていた。
だから、夜は少しでも心を晴れやかにしたくて
彩り豊かな街へとプラつくのがお決まりだった。
今日もいつものように街へと足を運んだ。
「君、芸能界とかに興味ないかな?」
「えっ!?」
サングラスに黒服。
いかにも怪しげな人が、名刺らしきものを差し出してきた。
“エビスプロダクション
人材マネージャー
小林 達也
(こばやし たつや)”
と記してある。
スカウト?
悪くはないな。その話に即乗り、OKの返事をした。
正直、学校と家の往復だけでは退屈だったしな。
だが、俺のこの返事が人生を180度変えられてしまうなんて思うはずもない。
「久々の上玉をGet出来るなんて、社長の喜ぶ顔が目に浮かぶな」
俺との出会いが余程嬉しかったのか、大きな独り言を放つ小林という奴。
そういや、エビスプロダクションってグラビアアイドルを多く育てているところだよな?
そうか。
エビスも女だけでなく、男のアイドルも売り出すようになったのか。
俺は一人関心していた。
「で、君名前は?」
「翼」
「いいね。
それじゃ、その名前を生かして……銀野 翼ってどう?」
「う~ん。
……TUBASAで良くない?」
銀野なんて芸名っぽいけど、書くの面倒だし。
「いいだろう。
では、TUBASAで登録しよう」
突然カバンからパソコンを取り出し、出会ったばかりだというのにもう何かを書き込んでいる。
「ところで、学校は何処行っているの?」
「公立北中」
「うーん、悪いけど転校してもらうよ。
両親の方への説明と段取りはこちらでとらせてもらう。
細かい事が決まったらまた連絡するよ。
君の住所と電話番号だけ控えさせてくれないか」
「あ、はい」
なんだかよく分からねぇけど、楽しそうだし、いいっか。