嘘でしょ!?

誰かも分からないこんな人に、

ファースト.キスを……奪われた。

唇に冷たい感触を感じながら、ただただ悲しくて。

瞳から零れ落ちるシズクが、無性にも頬を伝うだけ。

──美郷(ミサト)~、こんなのちっとも嬉しくないよ!!

身体を男に預けながら、この春他界した同い年の姉の事を想い瞳を閉じた。

美郷は言ったよね?

好きな人と唇を重ねあうのは、最高に幸せな事だって。

15で恋をしたアンタが羨ましかった。

けど、美郷。
アンタが逝ってしまってから恋に憧れる事を止めたよ。

だって、そんなものに憧れたって美郷は戻ってこないんでしょ?


──唇を覆い被せられた冷たい感触は消えたが、瞳を開けられなかった。

『今日は挨拶迄の事
次はソナタを頂きに参る。
神聖な誓いの場所で待っておる』

代わりに、頭の奥にまで響く透き通った声が耳に残る。

誰? 
誓いの場って何?

頭の中がクラクラする。

「千郷? 
 大丈夫?」

「えっ?」

陽菜? 
あれ?

「具合、相当悪いの?」

「ねぇ、ここにいた人は?」

小首を傾げながら陽菜は続ける。

「千郷ずっと一人でいたでしょ? 
 窓の外から手を振ってもボーっとしちゃってさ、心配するに決まっているじゃない」

私、一人?

夢? 
にしてはリアルすぎる感覚。

黒猫といい、謎の人といい今日は本当に変な日ね。

「もう……大丈夫だから」

これ以上心配掛けられないものね。

「良かった☆ 
 ねぇ、泳ごっ」

「そうだね」

プールに来て泳ぎもせずに干物のように、それも室内で妄想に耽っているなんて可笑しな話よね?

陽菜に手をひかれ太陽がサンサンと照りつけるプールサイドに戻った。