天寺は大きな欠伸をした。

口に手も添えず,後ろから見てもわかるくらいの,大きな欠伸。

「天寺!」

「…」
後ろから,少し高めの声がした。

彼のことを“天寺”と呼ぶ者は極少数に限られている。

それでいて,少し高めの声といったら,彼女しかいない。

「姫来さん。今日は十座と一緒じゃないの?」

「うん。あたし今日は朝練ないからね。てか,和良でいいって言ってんのに」

「 あ,ごめん」

彼女の言っていることの意味が,イマイチよくわからなかった。

訊き返そうとしたが,咄嗟にその言葉を呑み込んだ。なんとなく,彼女が何か言いたげだったから。