病院に残った桃威は、椅子に座ったまま祈るしかなかった。


記憶喪失…。


理香の言葉が耳に残る。


「渡邊君?」


ふと声を感じ顔を上げると、さっきの看護婦さんが俺の隣に座った。


「翔太君と双子なのね」


看護婦さんがまじまじと俺の顔を見て言った。


「…はい」


「あなたの名前は?」


「あ、桃威です」


「とうい?」


「えっと…『桃』って字に威嚇の『威』です」


「カッコイイ名前ね」


看護婦さんはふっと笑った。


「でもね……翔太君、桃威君の事を覚えてないの」


「……」


「さっきの女の子の事も分からないって。でも、それだけじゃないの」


「え?」


それだけじゃない?


更にまだ何かあるのか?


「自分の事も覚えてないの…」


「……え…」


「俺は誰ですか、って質問があったの。名前言ってもピンと来ないみたいで…」