「また来ます」

 立ち去る前、空気と羽海は雨鳥に言った。

「今度は国境なんかなくなった時に、堂々と飛行機を飛ばします」

 世の中がもっと平和になったらね。

 今なら空気と羽海は、この響きを実感することができる気がした。

「季節外れの面白い客だったよ」と雨鳥は笑って、それから小さなディスクを取り出してそっと空気の手に握らせた。

「これを西側の人間に渡してくれ。渡すべき相手の名前はディスクの裏にシールで貼ってある」

「え──!?」

 それは空気にだけ聞こえる囁き、空気にだけ認識可能な動きで、無色にも、羽海にも気づかれない、刹那の出来事だった。

「ああ、そうそう。実はこの店って名前がなかったりするんだけどさ」

 雨鳥はとぼけた調子ですぐにそんな話題を口にした。