無色の日の残像

 カナカナカナ、とひぐらしの声が聞こえている。

「ちょっと待って」
 真っ白な正門をくぐろうとする無色を、羽海が止めた。

「なに?」
 やはり無愛想に振り返る少年を見て、羽海が呆れた様子で腰に手を当てた。

「お見舞いに行くっていうのに、手ぶらはないんじゃない?」
「え?」
「普通はお花の一つも持って行くものよ」

 無色は、まるで考えても見なかったというように、ぽかんと羽海を見つめた。

「でも、花屋はもう過ぎちゃったし──」
「別に花屋まで戻らなくたっていいよ。花ならさっき、道の横にコスモスが咲いてたじゃない」
「え?」

 無色は今度はキョトンとした。

「咲いて──たかな」
「咲いてた」と、空気も言った。

「無茶苦茶いっぱい咲いてただろ。あれに気づかなかったのかよ?」

 無色は不思議そうな顔をした。

「全然気がつかなかった」